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 ※    ※    ※

以下の内容は「エンドブレイカー!」の二次創作です。
 
※    ※    ※

 
「じゃあ、行ってくるよ」
「ええ、いってらっしゃい」
 仕事に出る父。見送る母。
 その毎朝の光景を、半開きの扉から覗き込む。
 玄関を閉めかけたところで振り返った父と目が合った少年は、表情の変わらない瞳で無言の「いってらっしゃい」を言う。不恰好な微笑みが返されると、少年は再び手元の本へ視線を落とした。
 表情ひとつ変えずに黙々と読み進める本のタイトルは『the Endia』。つい先日、父親が買ってきてくれた一冊だ。
「今日はどんな本を読んでるの、■■■■?」
 朝食の支度を済ませた格好のまま見送りを終えた母が本を覗き込む。
 それに、少年は分厚い本を机に置いて少しだけ母のほうへずらして見せた。ページもあらすじの項まで巻き戻す。
「へぇ、ファンタジーかぁ。■■■■はほんとうに御伽話が好きね」
こくり、と一度だけ頷いて読書を再開する少年。その姿に微笑んで水場へ戻る母親。
 
 ―――それはもう思い出すことのない、しあわせな風景。
 少年の、あの頃の日常だった。
 
 
 とある昼下がり、いつものように少年は本で埋め尽くされた自分の部屋の中で次に読む本を探していた。
「…………」
 暫く部屋を行ったり来たりしていた少年だったが、すぐに困ったように眉を下げる。
 何よりお世辞にも広いとはいえない部屋。いくら棚を増やそうと詰め込める本の数は限られてくるもの。子どもにしては飽き性の薄い彼でも、内容を覚えてしまう程に読破してしまえば味を占めてしまう。
 結局居間にある比較的読んだ回数の少ない本を取りに行くことにした。
 渋々部屋よりはいくらか片付けられた長い廊下へ出ると、ふと、視界の端の違和感に気付く。
「あ」
 いつもは施錠されている筈の父の書斎の扉が、半開きになっていたのだ。
 それは子供ながらの好奇心。入ってはいけないと説かれていた領域への羨望感。
 恐る恐る扉のノブに手を伸ばす。ひんやりとした漆喰の手触り。それが、禁忌を犯す前のまっくろな背徳感に拍車をかける。
 誰もいないとわかっているのに周囲を確認しないではいられない。知らず喉が鳴った。
「――――――――」
 そして、扉を開く。乾いた音をたてて口を開けた部屋の中へ足を忍ばせるように滑り込むと、古本独特の埃っぽい臭いが鼻をつく。
 書斎は溢れんばかりの本で埋め尽くされていた。少年の部屋の何倍も広い空間に、少年の持つ何十倍もの本がひしめき合っている。壁際の本棚では足りず後から置かれたのだろう、天井にまで届く本棚がいくつも並べられたことでつくられた通路も人が一人通れるか否かという有り様。積み上げられた本で通れないものまである始末。
 例えるなら、図書館だ。少年が月に何度か通っている古びた図書館でもここまで酷くはないが。
「わ…………」
 その光景に、少年の感情の希薄な双眸が驚きに見開かれた。
 夢みたいだ。
 そう嬉しさを隠さない瞳で本棚のひとつへ手をかけた少年だったがしかし、彼はすぐに落胆することになる。
「はぁ」
 何冊めかの本を棚へ戻してため息をつく。
 本は、すべて研究の資料としての本だったのだ。図式だらけの本、難しい単語で綴られた本、異国の文字が羅列する本。どれも少年にとっては価値のないものばかり。
 それから数冊手にとってみるも結果は変わらず、更に肩を落とした少年はとぼとぼと書斎の扉へ手をかけた。
「…………?」
 ふ、と立ち止まる。
「なに…………」
 書斎の奥から、気配。
 少年は扉に背を向けて感覚を広げた。
「奥に?」
 少年はその不可解な気配を早足で辿る。迷路のような本棚の合間を縫って、まるで引き寄せられるように。
「――――――――」
 おそらく父の仕事机であろう、本の迷宮を抜けた先に現れた木造の机に、“それ”は置かれていた。
 そしてそれは、実際にはそんなことはないのだけれど、間違いなくそのとき少年の目には光り輝いて見えた。
「…………、」
 夜を流し込んだように黒く澄んだ表装。色にいっそうの深みを与える金の装飾彫り。
 派手ではないが確実に見たものを引き付ける、それは不思議な本だった。
「きれい」
 自然と少年の手は本へと伸びていた。
 撫でるようにしてそっと手触りを確かめる。見た目通りの滑らかさ、否それ以上。上質な布のようでいて特上の革のようでもある。
 そんな高級感極まる感触を堪能して今度は手に取り上げた。見た目とは反するずっしりとした重み。それは項の端から端を埋め尽くすほどの文字が多量のインクで綴られていることを物語っている。
 少年は、例えこれが父の研究の為の小難しい文献であっても最後まで読んでみようと思った。
 
 それほどまでに。そのときの少年はこの本の魔に憑かれてしまっていた。
 あの妙な気配がこの本のものだったのだということも。その気配がすわりの悪い寒さを伴っていたということも。すっかり忘れてしまうほどに。
 
「あれ?」
 この素敵な本のタイトルはどんなものなのだろう。
 好奇心のまま本を裏返した少年はしかし首をかしげてしまった。気を取り直して裏返してみてまた首を傾ける。
 そう、その表装には本来あるべきの本のタイトルが、そもそも文字がなかったのだ。背表紙も同じ様子で、表紙からつづく装飾で綺麗に飾られてあるだけ。
「ヘンな、本」
 きっと中に書いてあるのだ。
 そう決め付けた少年の手はついにその本のページを開く。――――開いて、しまう。
「え?」
 思わず小さく声を漏らした。
 そんな、まさか。
 信じられない思いで少年は次の、そのまた次のページを捲っていく。
 しかし結果は変わらない。ついに最後のページまで捲り終えると、少年は書斎の本が殆ど文献であったことよりも落胆した。
「なんだ……」 
 その本には、何も書かれていなかったのだ。
 声に出るほどの深い溜め息と共に本を閉じる少年。
 そもそも表装にタイトルがない時点で気付けばよかったのだ。ただのメモ用紙の束なのだと。自分にとって価値のない、ただ綺麗なだけの紙束であるのだ、と。
 文献よりも殊更興味の薄い対象を机におく。母に見つかる前に部屋を出なければ。言い知れない胸の空虚感を抱いたまま少年は踵を返した。
「っ、?」
 けれど再び立ち止まってしまう。
 最初に書斎を出ようとしたときの気配を、少年は今度ははっきりと背中で感じていた。
 据わりの悪かっただけの寒さが、今度は明確な恐怖となって襲ってくる。
「だっ、誰?」
 振り返る。
 しかし当然、誰もいる筈がない。
 ただ、乱雑に散らかった机に黒い本が一冊置いてあるだけだ。
 
 そう、本があるだけ。
 
「――――――――――――――――」
 
 何かが、
 くすりと、
 笑った。
「ぁ……」
 パラパラと項をめくる音を聞きながら、少年の意識はそこで途絶えた。
 
 
気が付 くと。
 
色の無い世 界に、僕はい た 。
 
ど こまでも広大な白紙のペー ジ の上に立って、甲高い 笑い声を耳で聞 いて。
 
のっぺりと聳える モノたちを見 上げている。
 
「――――――――や、」
 
 それ は 真っ黒な インクで染め上げられた沢 山の幻想。 御伽噺 から飛び出してき た荒唐無  稽な影達。
 
夥し い数 の、 二対の白い穴が ただじっ と僕を見下 ろしている。
 
「――――やめ、」
 
途端に 霧散す る影の輪 郭。
 
霧 のように曖昧で水のように重 々しく、気持ちの悪い音とうねりをつく ってひ とつの束となる。
 
その影が、 僕の肉を骨 を神経を、喰 らい飲み込み侵 蝕する。
 
黒 い 意識が、 流れ込む。
 
「やめ、て」
 
それは、無 数の剣と氾濫す る 炎。
 
 
禁忌で彩 られ た、 黒く甘く犯く悪く苦く恐く禁く畏く血く惨く憎く闇い、忌避すべ き衝動。
 
 
 
すべて。灼き殲してしまえ、と。
 
 
 
 
「■゛■゛■゛■゛■゛■゛■゛■゛■゛■゛■゛■゛■゛■゛■゛■゛―――――――!」
 
 
 
 
 
最後の 風 景は。
 
焼け落  ちた  書斎の  中
    で床に  伏  す、あか  く
染  まっ  た  母  親     と黒
   く    煤けた     父      親      の ――――――――
 
 
 
――――書の魔獣 ‐咆哮‐ end.
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