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  ※    ※    ※
 
以下の内容は「エンドブレイカー!」の二次創作です。
 
※    ※    ※

「……、……」
微かに埃臭い部屋の中、荒い息遣いが間断なく続く。
それと同時に項を捲る音。カサカサと、覚束ない手つき。丸めた背中を苦しげに上下させて、彼はただ本を捲っていた。
「……。……、……っ」
そんな状態で数時間か数分か。遂には机の上に積み上げた本や何やらを床にぶち撒けて、叩きつけるように頭を伏した。
「……、」
しかし視線は手に開いた本から外すことはなく。何に怯えているのか充血し見開いた瞳でなおも文字を追っていく。
「――――」
思い出してしまう。思い出さないように。約束を。取り引きだ、と言った悪魔に。守らせるために。
こうしてきたのに。ずっと読み続けていたのに。
目を閉じれば瞼の裏に焼け付いてしまったように、浮かんでくる。なにもかも朱色の光景が。
嫌だ。その封を空けてしまえば、今のぼくは。
思い出したく、ない。
でも。
 
「償えないままなのは、もっと嫌だから」
 
誰かの声。誰かの意思。
パラパラと項をめくる音を聞きながら。彼の意識はそこで途絶えた。
 
 
「――ごめん。ありがとう」
 
切っ先がぞぶり、と胸を突き刺す。冷たさがぞわり、とてのひらに食い込む。
「はん。本当はそんなこと思ってもないくせに」
そうしてあまりにも無防備にボクはそれを受け入れた。
その気になれば体ごと自分のものにできていたっていうのに、悪魔は消えることを是とする。
「長い間こうしていたら、悪魔にだって情が湧くってものさ」
晴れ晴れとした響き。言葉を紡がなかった唇が、確かに笑みのかたちをつくっていた。
「ここから見える景色はとてもつまらなく見えていたよ、ロア。長く続く停滞と安寧は物語を腐らせてしまうと思わないかい?」
つまらないものはいらないよ、と絵本の中身に失望した子供が表紙を閉じるような言。
そう悪魔だからこそ気まぐれに。僕から僕を切り離した悪魔は、不抜け腐った僕に手を差し伸べていくれていた。
まったく不甲斐ない話。最初から最後まで頼り切りだなんて。
「構うなよ。好き好んでやってることさ。その代わりじゃないけれど、今度はボクからお願いしてもいいよね。持ちつ持たれつ,、悪魔とヒト(ボクら)はいつもそういう関係だろう?」
血のように溢れるインクが突き刺した切っ先を伝う。失う筈だった力が、剣と炎が、違うかたちをもって再び流れこむ。
悪魔はもうカタチの定まらない指先で、なぞるように僕を指して。
「キミは償うと言ったね。自分だけが知る自分の罪を、自分の汚点をただ自分の為に埋め合わせたいと。
 は、実に独善的な贖罪だ。そんな最悪は一体どんな結末を迎えるのだろうね?」
だから、と。新しい楽しみを見つけた子供のように、黒く崩れていく悪魔は声を弾ませる。
 
「キミが物語になってくれ。
 唯一の本、あらゆる終焉を内包した無二の編纂。《キミ》という未だ見ぬ人生(ものがたり)。ボクはそれを読んでみたいよ」
ああ、見届けてくれ。
読者が居ると分かっているのなら、この筆先(あゆみ)が途中で止まることもきっとないから。
 
それでおしまい。
あっけなく、あっさりと。僕は僕を取り戻して、長い間ボクだったものは消えていく。
けれど。
「――でもさ。キミはほんとうに、”それだけ”なのかい?」
償いたいだけだったのか、と。
そんな胸糞悪くなる言葉を今度こその最後に朱色の景色は焼け落ちるように消えていった。
項の捲る音は、もう聞こえない。
 
 
― ――  ―en d .
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